橘さんが、どうして?
昨日の宴会では『明日は非番』と言ってたから、今日は駅に居るはずない。
だけど、あれは間違いなく橘さん。
昨日とは違う深い灰色の制帽を被っているけど、あのきらりと輝く瞳は間違いない。
駅員室の奥で、机に向かってる。何をしているのかはわからないけれど、どう見ても仕事していたようにしか見えない。
前を行く姫野さんは、橘さんには全く気づいていないらしい。よほど呼び止めて尋ねようかと思うのに、ずんずん駅員室を通り抜けていく。
私は取り残されないように、姫野さんの後をついて歩くのに必死で。納得いかないながらも、なんとか橘さんに会釈を返した。
たぶん私の顔は、一面疑問に満ちていると思う。
橘さんが、ひらりと手を挙げる。
姫野さんが見ていないからか、余裕たっぷりの涼しげな顔をして。
今すぐに姫野さんを呼び止めて、あんな顔をしてると教えてやろうかしら。
と思っていたら、駅員室を出た姫野さんが足を止めた。胸のポケットから取り出した携帯電話から、控えめな着信音が聴こえてくる。
橘さんのことを言おうとしたけど、ぐっと堪える。

