君と夢見るエクスプレス


姫野さんに急遽会議の予定が入ったため、予定を早めて事務所を十時に出発することになった。会議は十四時からだから、午前中の二時間ほど茜口駅周辺を軽く回ることに。



ゆっくり準備するつもりが、急に慌ただしくなってくる。姫野さんの会議資料の準備まで手伝うことになってしまったから。



必死にデータを打ち込みしている視界の端に、姫野さんの顔がちらちらと映り込む。何か言いたいのか、窺うように何度も振り向いてはまた向き直る。



何だか、気になって仕方ない。
ついに根負けしたのは私。



「姫野さん、どうしたんですか? データの追加なら大丈夫ですよ」



尋ねると、姫野さんは少し恥ずかしそうに首を振った。姫野さんらしくない戸惑った様子が不思議な感じ。



「いや、違うんだ。松浦さんはお昼は持ってきてるの? お弁当頼んだ?」
「いいえ、頼んでいないし持ってきていません」
「そうか、だったら帰りに食べて戻ろうか」
「はい、わかりました」



ふわっと緩んだ姫野さんの表情に、なんとなく違和感を感じてしまう。



それが何なのか。
ぼんやりと浮かんだ予感は、鳴り出した姫野さんの電話の着信音に一瞬でかき消されてしまった。