「おいおい、何言ってるんだよ。一度お仕置きしてやろうか?」
けたたましく笑いながら、芹沢主任が事務所を出て行く。
去り際に残した言葉にドキッとさせられて、息が詰まりそうになる。同時に、脳裏に響いた穏やかな声。
『約束、だよ? 言ったらお仕置きだからね』
昨日、会議室で頬に触れた柔らかな感触とリップ音。そっと離れていく手の優しい仕草まで、リアルに蘇ってきた。
さらに顔まで熱くなってくる。とっさに机上の書類へと視線を落として、顔を隠そうと試みる。
こんな時に、何を思い出してるの?
しっかりしろ、私。
鎮めようと言い聞かせるのに、胸の鼓動は速くなるばかり。
「松浦さん? どうしたの?」
何にも事情を知らない姫野さんが、追い打ちをかける。
どうしたの?
なんて尋ねられても、正直に答えられるわけない。それどころか、顔さえ上げられない。
「いいえ、何でもないです。すみません」
机上の書類を睨んだまま、答えるのが精一杯。
もう、これ以上は聞かないで。
お願いだから、見ないでください。
私のことなんか、気にしないで。
必死になって祈った。

