あの時、彼の言ったこと。
『お前の方が、もっと危なっかしいと思う』
『危ないことだけはするなよ』
酔っているのかと思ったら、急に真顔になった彼の言い含めるような口調。
彼の言ってることの意味は、よくわからなかったけど。
『俺が食ってやろうか?』
と、続けて言った彼の声。
私を捉えた蕩けそうな目に、完全に勘違いしてしまったことが恥ずかしい。
今はただ、彼が覚えていないことを祈るばかり。
「ううん、彼とはほとんど話してないよ、席離れてたから。それより海老が美味しかった」
「ふうん、姫野さんに別メニュー頼んでもらったでしょう?」
振り向いた美波は、何やら意味深な目つき。
どうして、美波が知ってるんだろう。
コース料理とは別に、姫野さんがこっそり注文してくれたことを。
「海老コロッケとサラダね。どうして知ってるの?」
「そりゃあ、わかるよ。っていうか、陽香里はわからない?」
「え、わからないけど何?」
「はあ……、もういい。お昼、無理しなくていいから姫野さんに合わせなよ」
美波は大きな溜め息を吐いて、にこりと笑う。まだ何か言いたげな様子が少し気になったけど、聞き返すことができなかった。

