「そう? 美波みたいに取材でいろいろ行けたらいいけど、茜口駅前ばかりだよ? 市の中心部だっていうのに寂れてるし」
「そうだね。隣りの霞市の方が賑わってる感はあるね。でも、事務所で座ってるよりも外に出てる方が楽」
「まあね、座りっぱなしでモニター見てるのも退屈だし、疲れるよね……」
「本当だよ、まだ火曜日だからいいけど金曜日になったら肩ががっちがちだよ」
と言って、美波が肩をぐるぐると回した。
横断歩道の信号機が青に変わって、一斉に人が流れ始める。その波に流されるように、私たちも歩き出す。
ずっと前方に、見たことのある後ろ姿。
「あ、阪井室長。今日は遅い出社……、って。昨日の歓迎会、どうだったの?」
いきなり美波が振り返る。目を見開いて、驚いた顔。いつもより遅い出社の阪井室長を見て、思い出したらしい。
ようやく横断歩道を渡りきったところ、信号機が早くも点滅し始めている。
「普通。半分ぐらいしか来てなかったし、彼の自己紹介で終わった感じ。私もひたすら食べてたし」
「海老、美味しかった? 彼とは話さなかったの?」
そんなことを言われたから、思い出してしまった。余計なことを。

