彼女らだけじゃない。
彼の周りに居た乗客たちも目を逸らしたり、顔を伏せて声を殺して笑い出す。
どうやら、皆が彼の動向を気にしていたらしい。
この車両の新参者である彼が、周りの異変に気づいて振り返った。
しまった! 目が合った……
すごく怖い顔。
だけど、彼の目が揺れている。同情するほどの動揺の色を滲ませて。
車体が大きく揺れて、停車を告げるベルが鳴る。女子高生たちがいるのとは反対側のドアが開く。
彼女らのひとりが、大きく手を叩いた。
「あのさぁ、降りるの? アッチだよ?」
と開いたドアを指差して、甲高い声で笑い出す。一瞬にして彼の顔が赤に染まった。
「間違えんなよ、恥ずかしい」
追い打ちをかける言葉から逃げるように、彼は乗客を押しのけてホームへと降りていく。
大きな笑い声を背に、私も電車を降りた。笑いを堪えながら。
改札口へと向かいながら彼の姿を探したけれど、もうどこにも居ない。相当恥ずかしかったんだろう。
うん、わかる。
私だったら、もう電車には乗れなくなるかもしれない。この時間の電車に限らず。

