「松浦さんも、あまり飲んでないんだね」
うっとりとした心地をばっさりと遮断したのは橘さんの顔。あまりに突然割り込んできたものだから焦点が合わず、彼の顔がぼやけて遠退いていく。
と思ったら、体を抱き寄せられる力強さ。彼が私の顔を覗き込んで、笑った。
「酔っ払ってんの?」
どうやら彼の登場に驚き過ぎて、後ろに倒れそうになったらしい。
それで、彼が抱きとめた?
「ちょっと、何するんですか? やめてください!」
思いっきり彼を跳ね除けて、助けを求めようと見回した。だけど皆、談笑に夢中で誰も気づいてくれない。唯一の頼みの綱である姫野さんの姿もどこにもない。
「誤解するなよ、危ないと思ったから助けたんだろ?」
「何言ってるんですか、あなたが驚かせたから……、それに一番危ないのはあなたでしょう?」
「失礼な、俺にも選ぶ権利がある。お前の方がもっと危なっかしいと思うぞ」
ふと、彼が真顔に変わった。
今まで感情的に言い争っていたのが嘘みたいに。

