微笑みを湛えたまま、姫野さんが私を見つめてる。
「松浦さんは素直だね、絶対に嫌だと言わない」
思いもよらない言葉に、どきっとしてしまう。職場では誰にも言われたことのないような言葉が、照れ臭くて堪らない。
姫野さんは酔っ払ってる顔じゃない。
今日は、酔いが回るほど飲んでいないし。
「そ、そうですか? 私は与えられた仕事をこなしているだけですけど……」
「そこがいい、夢とは違う仕事だけど文句を言わず、手抜きせず、一生懸命なところが僕は好きだよ」
姫野さんが目を細める。
視線を外してくれればいいのに、ずっと私を見たまま。
もう、恥ずかしくて恥ずかしくて……
「だけどさ、俺たちが構想を練って造ったものが、何年も、この先ずっと残るんだって、考えただけでわくわくするだろ?」
と言って、姫野さんが視線を逸らした。恥ずかしさと緊張感が、するすると解れていく。
「はい、私たちが年を取って、子供や孫に話すことを考えたら誇らしいですね」
「だろ? 裏方の仕事だけど、そこに形として残るんだ。俺はすごく誇りに思ってるよ」
振り向いた姫野さんは、きゅっと口を結んで目を輝かせた。

