君と夢見るエクスプレス


笠子主任は私より十歳上の三十五歳。奥さんもいるし、昨年生まれた子供もいるらしい。



やっぱり素敵だと思う人は、早々に売れてしまうものなんだなあ……



もっと早く出会えていれば、本気で笠子主任を好きになっていたかもしれない。こんなことを言ったら誤解されるに決まっているから、誰にも話すつもりはないけど。



「松浦さん、明日から一週間ほど茜口周辺の現地調査に行くつもりだから、同行よろしくな」



注文を終えた姫野さんが、突如口走った。



はっきりとした口調だったから、ここが宴席だということを忘れてしまいそうになる。まるで職場の延長のような雰囲気。



「はい、現地調査ですか?」
「うん、駅周辺をデータと照らし合わせてみようと思う。一週間かけて、ゆっくりと」



私たちが実際に出向かなくてもいいように、橘さんがメンバーに加わったんじゃなかったの?



感じた疑問を、そのまま姫野さんにぶつける勇気はない。尋ねても怒るようなことはないだろうけど、きっと姫野さんなりの考えがあってのことだろうし。



「わかりました、よろしくお願いします」



答えると、姫野さんは満足そうににこりと笑う。