君と夢見るエクスプレス


「橘君は入社五年目? そろそろ車掌に……とか考えてるんじゃないの?」



笠子主任のひとつ年下の先輩社員が問い掛ける。すると、彼は阪井室長と顔を見合わせた。



「いいえ、まだですよ。僕は今年一月に入社したばかりですから」



丁寧な口調で答える彼に、皆が目を丸くする。
私も驚いた。彼はまだ入社して半年しか経っていないというのだから。



「へえ、そうだったの? まだ半年かあ……、これからだな」
「全然知らなかったけど、中途採用なんか募集してたんだ」



皆が驚く中、姫野さんは無反応。空っぽになったグラスにビールを注ぎながら、メニューへと手を伸ばす。



「松浦さん、何か飲む?」
「はい、チューハイのライムを」
「うん、わかった」



姫野さんは笑いながら、グラスを仰いだ。



こんなにも無関心で居られるのは、既に彼から聞いているからだろう。今日は一日中、彼と一緒だったから。



それでも、姫野さんには抵抗があるに違いない。まだ入社半年の彼を、プロジェクトメンバーとして受け入れることに。



だからこそ、今こうして無関心を装っている。