私だって、負けるものか。



「どうして約束しなきゃいけないの? こんなことされて、許されると思う?」
「許してもらうのは君の方だろ? 約束しなきゃ離さないよ?」



彼は平然として言い返す。
少しぐらい焦ってもいいのに、そんな素振りすらみせないところが腹立たしさを加速させる。



「バカじゃない? もうすぐ笠子主任と姫野さんが戻ってくるよ? こんなとこ見られたら、どうするつもり?」
「べつに、俺は構わないよ?」
「立派なセクハラだけど? それでもいいの?」
「ああ、いいよ。ほんっと、うるさいなあ」



私の腕を掴んだ手に力を込めて、彼の顔が急接近。とっさに目を閉じて顔を背けたら、頬に柔らかいものが触れた。紛れもなく唇の感触。



胸の鼓動が大きく弾けた。



わざとリップ音を残して、彼が離れてく。私の腕を下ろして掴んだ手を離す仕草が優しい。
あんな言い方してたくせに。



「約束、だよ? 言ったらお仕置きだからね」



笠子主任に負けないほど穏やかな声。
にこりと笑って、彼は席へと戻っていった。