「陽香里、聞いて。俺は後を継がない。父も了承済みだから」
「本当?」
「うん、弟が後を継ぐから安心して。頼み込んだら、父が折れてくれたんだ」
「乗務員になりたいって頼んだの?」
「そう、港陽鉄道で運転士になりたいってね」
彼がふわりと笑顔を見せてくれた。
不安をすべて吹き飛ばしてくれるような笑み。私の顔まで綻んで、熱いものがこみ上げてくる。
「よかった……」
彼の指が頬をなぞって、零れた涙を拭ってくれる。それでも後から後からこみ上げてきて、涙は止まりそうにない。
「だから、陽香里。安心して、俺と付き合ってよ」
なんて言われたら、もう涙が止まるはずない。
「ありがとう、ずっと一緒にいて」
「もちろん、陽香里」
もう、涙が邪魔をして彼の顔も見えない。だけど、ずっと感じられる温もりと鼓動は離さない。
ずっと、彼の傍にいる。
彼が夢を叶えてくれる。
私は、彼と一緒に夢を見るんだから。
- 完 -

