彼が私を抱きしめてくれる。
優しく、強く、蕩けてしまうほどに。
このまま私の嘘も、彼の嘘も、すべて溶かしてくれたらいい。
『愛してる』と、何度声に出しただろう。
彼に抱かれながら、自分が頑なに被っていた殻が破れて剥がれ落ちていくのを感じる。
私のすべてを受け入れて、私もあなたのすべてを受け入れるから。
微睡みそうな意識の中、彼の声が響いてきた。
「ホテルに居たもうひとりは俺の父。ホテルグループの社長なんだ」
笠子主任から聞いたことを、ようやく彼が話してくれる。迷いながらも、しっかりした口調に意思の強さを感じせられる。
「父は俺に継ぐようにと事あるごとに言ってた。それに耐えられなくて、逃げ出したんだ」
彼の留学した理由は、父親から逃げたかったから。
きっかけは、以前に駅前のお好み焼き屋さんで話してくれた通り。鉄道フェスティバルで、私を偶然見かけたことだという。鉄道員になりたいと元彼と話す私を見て、背中を押されたと彼は言った。
知らないうちに彼の後押しをしていたことに驚いたけど、これを運命というのだろうか。
だったら、彼と運命をともにしたい。
ずっと、ずっと。

