君と夢見るエクスプレス


夕食は橘さんの手料理。
料理ができることに驚いたけれど、



「一人暮らししてたから、少しだけね」



と言う彼に納得。
そういえば、大学卒業後に留学してたんだ。



「私より上手いと思う」



お世辞じゃなく本気で言うと、彼は謙遜しながらも少し照れくさそうな顔をする。



「そんなことない、陽香里の方が一人暮らしは長いんだから」



と言って。
一人暮らし歴は、確かに私の方が長い。



だけど彼は大学の時は実家にいたのに、留学後はどうして実家に戻らなかったんだろう。



「橘さんは留学から帰った後、どうして実家に帰らなかったの?」
「実家は窮屈だから。親が何かとうるさいだろ? ひとりが気楽なんだ」



うるさい親と言うのは、先週の日曜日にホテルで一緒にいた人?
尋ねたい気持ちが顔を覗かせる。



「すぐ近くに住んでるのに、帰ってないの?」
「たまに帰ってるよ、そうしないとここまで押しかけてくるからね」
「愛されてるんだね、橘さんはひとりっ子?」
「違う、二つ下の弟がいる。実家に居るけど出て行きたいって、ボヤいてるよ」



橘さんには弟がいるんだ。
初めて知った事実に、胸がざわめく。