姿を見せたのは笠子主任。
続いて橘さんが見えるはずと思っていたのに、見えないままドアは閉まった。
険しい顔をした笠子主任が、阪井室長の席へと向かってく。姫野さんが立ち上がり、笠子主任の元へ。
私も席を立った。
「橘君は?」
阪井室長に、笠子主任が耳打ちする。聴き取れなくて、二人の顔を見たけどわからない。
阪井室長は口をへの字に曲げて、事務所の遠くの方を見ている。
耐え兼ねた姫野さんが進み出た。
「阪井室長……」
「姫野君、橘君は体調不良で帰ったそうだ。午後の会議は任せたよ」
言いかけた姫野さんの言葉を遮って、阪井室長が言い切る。
橘さんが帰った?
すぐに聞き返したい衝動に駆られる。
だけど聞き返したら、姫野さんと彼との騒動をすべて話さなければならないのでは?
「了解しました、任せてください」
姫野さんの声の力強いけれど、私の不安は拭いきれない。
今はただ、橘さんの真意を知りたい。
「松浦君も頼んだよ、姫野君の指示に従ってほしい」
姫野さんの影で不安を抱える私を、阪井室長が覗き込む。
「わかりました」
私は、頭を下げるしかなかった。

