「姫野君! 橘君も、そろそろ始まるから……」
緊迫した空気を立ち切ったのは、笠子主任だった。
ここで起こっていることなど何にも気づいてない様子。目を丸くして、私たちへと歩み寄ってくる。
姫野さんの体から力が抜けていく。
「何か、あったのか?」
笠子主任が顔色を変えた。
ようやく只ならぬ状況を察したらしい。
姫野さんと橘さんを交互に見て、顔をしかめる。
姫野さんは息を吐きながら頭を垂れ、橘さんは背を向けて窓際に置いていた資料を取り上げた。
私は立ち尽くしたまま、黙っていることしかできない。
「橘君、資料は松浦さんに渡して。姫野君と松浦さんは会議室へ戻りなさい」
いきなり、笠子主任が声を張り上げた。
驚いて顔を上げたら、姫野さんと橘さんも同じような顔をしている。
「皆を待たせているから、早くしなさい」
戸惑う私たちに、笠子主任はさらに一喝。
姫野さんが、橘さんから資料を取り上げた。少々荒っぽく感じられる動きに緊張感が増す。
「松浦さん、行くよ」
動きに反して穏やかな姫野さんの声に伴われ、会議室へと急いだ。

