「おい! 何してる!」
背後から飛び込んだ声に、体が大きく跳ね上がった。低い叫び声に近い声に、ぎゅうっと胸が押し潰される。
姫野さんだ!
慌ただしく駆けてくる足音。
姫野さんが、こちらへと近づいてくる。
とっさに突き放そうとするのに、橘さんは私を抱いたまま。さらに腕に力を込めて、離そうとしない。
見上げたら、橘さんは顔を伏せて目を閉じてる。まるで、姫野さんの声が聴こえなかったように。
そんなはずないのに、どうして?
「橘さん!」
呼び掛けるのと同時に、抱いていた腕が緩んだ。
体が後ろへと傾いて、彼の温もりが離れてく。目の前には、彼の姿を遮るように立ちはだかる姫野さんの背中。
姫野さんが彼の腕を解いて、私を引き剥がしたんだ。
「お前、松浦さんに何を!」
怒声とともに、姫野さんが右腕を振り上げる。左手には橘さんの腕を握り締めて。
これから起こることを想像するのは、容易いことだった。

