片腕に資料を抱え、片手で引っ張った彼は自販機コーナーへとまっしぐら。廊下を進む彼のスピードに、足が絡みつきそうになる。
すぐ目の前の角を曲がれば自販機コーナー。廊下の先にある会議室から、ひょっこりと誰かが飛び出した。
あれは姫野さん。
姫野さんがこちらを振り向く前に、彼がきゅっと方向転換。素早く角を曲がって自販機コーナーへと入った。
「くっそ、来るなよ……」
彼は窓沿いの棚の上に資料を置いて、ごく小さな声で彼が呟く。
私はそっぽを向いて聴こえないふり。廊下の方を気にしていると、彼が掴んだ手を強く引き寄せた。
「陽香里、会いたかった」
するりと彼の腕の中に収まった私の頭上に、彼の声が舞い降りて来る。
名前を呼んでくれた優しい声。
抱き締められる腕の強さと、彼の体に触れた安心感が体中に満ちていく。
このまま、心地よさに落ち着いてしまいそうになる。
だけど、私はまだ許していない。
彼が嘘をついて、何をしていたのか。
ちゃんと聞くまでは許すものか。
それに、姫野さんが来たらどうするの?

