君と夢見るエクスプレス


だって、悔しいじゃない。
彼はまだ嘘をついたことに触れないし、謝ろうという様子も見せない。



たぶん、このまま私が何にもいわなかったら、うやむやにしてしまうつもりだ。



彼の視線が痛い。



どうして睨んでるの?
私が悪いんじゃないのに。



こみ上げる悔しさと苛立ちに、小さく息を吐いた。視界の端に映る彼の顔が、緩やかに傾く。



「ねえ、怒ってる?」



ぼそっとした声に、反省なんて少しも感じられない。



「え? 怒ってないよ」



コピー機の音が変わって、もうすぐ終わりそうな気配。排出トレイへと伸ばした手が、彼の手とぶつかった。



すぐに引っ込めた手を、彼が握って引き止める。



「ごめん、俺が悪い」



力無い声が彼らしくない。
見上げた彼の顔にも覇気はなく、さっきの会議で見ていた顔とは違う。



彼の言葉に続きがあるなら聞きたいけど、こんなところで手を握られてたら誤解を招いてしまう。



とくに姫野さんに見られたりしたら。



「わかったから、離して」



彼の手を振り解いたら、排出トレイに手がぶつかった。焼きたての資料が、床へと零れ落ちていく。