その夜、橘さんが家にきた。
約束をしていた訳じゃなくて、突然の訪問。
橘さんは他部門との打合せがあるからと、私は先に退社。帰宅して食事を済ませて寛いでいるところに、橘さんから電話があった。
彼が来るまでに簡単に家を片付けて、慌ただしいけど気分が弾んでしまう。
家に誰かが来るなんて、前の彼氏以来だから余計に。
インターホンの鳴る音にも、モニターに映る彼の姿にも、胸が高鳴る。新鮮で嬉しい胸のときめきが、私の気持ちを加速させる。
ドアを開けた途端、倒れ込むようにもたれ掛かる彼の温もり。抱き締められる力強さに、込み上げてくる安心感。
鍵を掛けようと、彼の背中に回した手を伸ばす。手が届く前に、鍵を掛けたのは彼。伸ばした手を捕まえて、私の背を壁に押し付けた。
あり得ないほど鼓動が速くなっていく。
恥ずかしくて目を伏せたら、
「陽香里、こっち向いて」
と顎を持ち上げる。
目を逸らす私の顔をしつこいほど覗き込み、何度も頬ずりをしてから唇を重ねた。
柔らかで優しい揺らぎに、一気に溶かされていく。

