じっと睨んでいたら、彼が振り向いた。緩やかに口角を上げて、目を細めて。
「陽香里、その口塞ごうか?」
投げ掛けられた言葉が、ことんと胸の奥で音を立てる。
こんな所でできるわけない。
あくまで強気な気持ちを保って、彼を見据えた。
「何なの? こんなところで脅すつもり?」
できるものなら、やってみなさいよ。
という気持ちを込めて、きっぱりと吐き捨てる。
「脅しなんかじゃない、本能だよ」
彼がくすっと笑う。
すっと伸ばした手を私の手に重ねて、力を込めた。
「理性はないの?」
「あるから今、こうして我慢してるんだ」
握り締めた手を引き寄せて、彼が唇を寄せる。ほんの一瞬だけ、灯った熱が体中を駆け巡っていく。
「嘘つき」
「嘘じゃない、陽香里を愛してる」
そんなことを言うから、しばらく熱は冷めることはなかった。

