私が電話をしてる間中、聴いていたのは知っている。声のトーンは極力落としたけど、聴き取ったのかもしれない。
聴こえていたとしても、聴き取っていたとしても、お願いだから今回は何にも聴かなかったことにしてほしい。
お願いだから、今は知らん顔していて……
と祈る中、姫野さんがひとつ咳払い。
「松浦さん、外回り行くの?」
まさに、核心に迫る問い。
「あ、はい……、行く予定でしたよね?」
また、嘘をついてしまった。
何を白々しく、すっとぼけてるんだろう。本当に自分が情けなくなってくる。
「いや、今日は外出の予定は……」
「すみません、さっき僕が松浦さんに話したんです」
首を傾げる姫野さんを遮って、橘さんが割って入ってきた。しかも打ち合わせテーブルに居たはずの彼が、こちらへと向かってくる。
何なの、いったいどういうつもり?
彼の言ってることがわからない。
彼とはただ、お昼を食べに行こうって言ってただけ。外出するなんて話は、ひと言もしてなかったじゃない。

