「おはよう、今日は早かった? いつもの電車を待ってたけど、乗ってなかったから」
こんな日に限って、美波が待っていてくれたなんて申し訳ない。早くも焦った頭の中から、言葉が消えていく。
「ごめん、今日は早い電車で来たから……、どうしたの? お昼?」
「うん、今日はどうする?」
「ごめん、今日は外出が入ったから、こっちで食べるね」
とっさについてしまった嘘。
外出なんて、あるわけが無い。
先週、姫野さんからも誰からも何にも予定を聞かされてなんかいない。しかも、まだメールのチェックもしていないというのに。
そして姫野さんに聴こえないように、しっかりと声を落としたつもり。
「そっかあ……、姫野さんと?」
「うん、そう。急に入ったから、ごめんね。またメールするよ」
「謝らなくていいよ、頑張っておいで」
何にも知らない美波の言葉が、胸を締め付ける。嘘をついてる心苦しさと罪悪感と、姫野さんの存在も。
受話器を置いてもなお、姫野さんの視線は私に注がれたまま。

