君と夢見るエクスプレス


「おはようございます」



いつもと変わらない口調で挨拶して、素知らぬ顔で席についた。パソコンを起動して、バッグの中から手帳とスマホを取り出して。



始業の準備に取り掛かる私から、隣の席の姫野さんはまったく目を逸らそうとしない。



あくまでも姫野さんには気づかないふりをしながら、私は慌ただしさを装ってる。



ちらりと橘さんを見たら、自分の机を持っていないから事務所の隅の打ち合わせテーブルに着いてる。早くも書類を広げて涼しげな顔。私の焦りなんて、少しも気に留めていない感じ。



あの余裕は、どこから生まれるんだろう。
いつ姫野さんに突っ込まれるのかと、私はひやひやしてるのに。



すると、いきなり内線電話が鳴った。



タイミングの悪さに、鼓動が跳ね上がる。ディスプレイに表示されたのは、思った通り美波の内線番号だ。



やっぱり……
だけど、どうしよう。



受話器へと手を伸ばす視界の端に、姫野さんが映ってる。今ここで、美波に正直に話すことなんてできない。