橘さんと一緒に宮代駅で降りて、駅前のコンビニに立ち寄ってからの出社。二人で出社するなんて、内心ドキドキする。
いつもなら駅で美波と出会って一緒に出社するか、ひとりで出社してるから。他の人と一緒に出社することなんてないし、知っている人に会っても挨拶を交わす程度だから。
駅勤務の橘さんのことを知っている人は少ないだろうし、一緒に出社したぐらいで妙な噂が立つようなことはないだろう。
高まる緊張感を抑えながら、事務所へと向かう。
事務所の扉を開けたのは橘さん。
「おはようございます」
澄んだ空を滑空するように、爽やかな声を響かせて事務所へと入っていく。聴き慣れない声に事務所にいる人たちが顔を上げ、私たちへと視線を注ぐ。
その中に、顔を強張らせた姫野さんがいた。
いかにも驚いた様子で口を開けて、席へと向かう私たちをずっと目で追いかけてる。
ちくりちくりと刺すような視線が痛くて、俯き気味になるのを賢明に我慢。俯いたりしたら、明らかに不自然だし。
ドキドキしてしまうけど、こんな所で狼狽えるわけにはいかない。下手に突っ込まれるような隙を見せないように、至って普段通りを装う。

