ところが、彼はすぐに視線を逸らす。
なんだか拍子抜け。
一瞬だけ目を細めて、微笑んだようにも見えたのは気のせい?
すっと立ち上がった彼は、
「よろしくお願いします」と会議室を出て行く阪井室長に一礼。
「こちらこそ頼んだよ。わからないことがあったら、笠子君や姫野君に遠慮なく聞きなさい」
「はい、ありがとうございます」
ドア越しの阪井室長に向けた彼の、はっきりとした口調。ぴんと背筋を伸ばした彼は、真面目な印象で。
今朝のコンビニで、きっと睨んでいた怖い顔が嘘のよう。あの時の脅すような怖い目とは全然違うから。
阪井室長が出て行って間も無く、再びドアが再び開いた。姫野さんが戻ったのかと思ったら、ひょっこりと顔を覗かせたのは阪井室長。
「ところで、彼の歓迎会は今夜でよかったかな?」
「はい、室員にはこれから確認を」
「うん、今週は予定が入っているから急な話で本当に申し訳ない。では失礼」
ふうん、阪井室長は忙しい人なんだ。
室長というけど部長クラスだから、会議だけでなく社外の予定も多いのだろう。

