君と夢見るエクスプレス


「あの時は彼氏と一緒だったよね? だけど、それが理由じゃないと思うんだ」
「うん、彼氏とは別れたけど全然未練なんてない。今はひとりで居る方が、気楽でいいよ」



強がりでも何でもない正直な気持ち。
彼氏なんて、今は要らない。
居たとしても甘えてしまって、余計な愚痴を溢してしまうだけ。



だったら、ひとりで仕事に打ち込んでいる方がよほど気持ちが楽で居られる。



彼が、ふっと笑った。



「そうかな、ひとりがいい?」
「うん、ひとりがいいよ。友達と喋って遊んでる方が楽しいし」
「嘘だろ? 本当は甘えられる存在が欲しいと思ってるんじゃない?」
「余計なお世話、彼氏に甘えようだなんて思ってないから。それに今は仕事でいっぱいだから」
「強がるのは止めなよ、俺に甘えてくれない? ちゃんと受け止めるから」



穏やかなのに艶っぽい彼の声が、胸の奥を刺激する。とくんと音を立てて揺らいだ鼓動が、じんわりと熱を持ち始める。



「結構です、余計なお世話ですから」



きっぱりと言い切って、グラスを仰いだ。



彼が見つめる視線が痛い。
早く、目を逸らしてよ。