君と夢見るエクスプレス


「橘さんって、少食なんですね」



ほんの少し嫌味を込めて言ったら、ようやく気づいたように体を起こした。
やれやれ、沈黙から解放される。
と、思ったのに。



「ところで姫野さんとは、どうなの?」



彼の口から飛び出したのは意外な名前。
笠子主任の次は姫野さん?



まるで私が、恋多き女みたいな言い方、
それはちょっと失礼じゃない?



「どうって何? 何にもないけど?」



強く言い返したのは疑惑を払拭するためだけじゃなく、なんだか本当に腹が立ったから。



疑われるようなことをした覚えはないし、心当たりなんてない。笠子主任に関しては心当たりはなきにしもあらず。



強いて言うならば、最近姫野さんの様子が少しおかしいこと。なんとなく思わせぶりな態度が気になるけれど、そんなことは私の口から言えるようなことじゃない。



「いや、ごめん。あの人面白いなあと思って」



橘さんが焦ってる。
さっき強く言い返したのが、思いのほか効いたらしい。



当然の報いだ。
勝手な憶測で、疑われるなんて堪らない。根拠のない疑惑は、きっちりと否定しておかなければ。