あの時は彼が何を言ってるのか、まったくわからなかったけど。
今、わかった。
やっと、わかった。
「橘さん、どうして気づいたの?」
「ん?」
私の質問が聴こえてなかったみたいな、曖昧な返事。
答えようともせず、鉄板の上のお好み焼きを綺麗に切り分けて、綺麗にお皿に盛りつける。手際の良さと慣れた手つき。
私の問いかけに対する答えなんて置き去りに、ほいっとお皿を手渡した。
「食べて、これ一番のおすすめだから」
橘さんにお任せしたメニュー。確かポテトサラダが入ってると言ってたはず。
気持ち悪っと思いつつ、ひと口食べてみたら意外な味。
「美味しいかも……」
「だろ? 俺も最初は気持ち悪かったけど、食べたら美味しいからビックリしたんだ」
と言って、橘さんもパクリと頬張る。表情が緩んで、柔らかな笑顔へと変わっていく。
ぞわっと、胸の奥で何かが揺らいだ。
どこで感じたのかは忘れたけれど、懐かしくて心地いい揺らぎ。
いつ感じたのか、この気持ちが何なのか、思い出せなくてもどかしくて。
勢いよくビールを流し込む。
「結構ハイペースだなあ」
と笑いながら、彼がジョッキを握った。
ふわりと細めた目が、眩しい。

