「そうだ、異動ではない。橘君には週に一度から二度、ここに出社してもらい、情報の擦り合わせと計画の立案と検討を……と考えている」
「駅の業務に支障はありませんか? 彼が居なくなる分、負担が掛かると思いますが」
「それは調整済みだ、姫野君が心配する必要はない。橘君の負担が増えるかもしれないが、了承は得ている」
緊迫を増す姫野さんと室長のやり取り。聞いている彼は、姫野さんが自分を嫌っているのではないかと感じても仕方ないだろう。
一緒に仕事をしている私には、姫野さんの仕事への意地は痛いほど感じられるけれど。
「はい、駅には四月に新人が配属されて、実質一名増員となっています。私も、こちらの業務にべったりではありませんから。どうぞ安心ください」
険悪なムードを払拭したのは彼自身。凛とした力強い声が、姫野さんへと向けられた。
背筋を伸ばして、まっすぐに姫野さんを見据える彼の目には澄んだ輝き。
彼は自信に満ちている。
いつの間にか、引き寄せられてしまっていた。目を合わせないように顔を伏せていたのに。
彼が、きゅっと口角を上げる。

