君と夢見るエクスプレス


茜口駅から、自宅のある滝野原駅までは普通で二駅。土曜日の夕方だけど車内は比較的空いていて、座ることができた。



流れていく車窓の景色をぼんやりと眺めながら、考えているのは晩ご飯のこと。
あまりお腹は空いていないけど、どうしようかと。



考えているうちにうとうとしてきて……
ふと目の前が暗くなった。



薄っすらと開けた瞼の隙間から、真ん前に人が立っているのがわかる。選りに選って私の前に立つなんて。



僅かに不快を感じながら、顔を上げると橘さん。吊革に掴まって前のめりの体勢で、



「やあ、帰り?」



と、涼しげに微笑みかける。



一気に目が覚めた。
同時に血の気が引いていく。



今すぐ目を閉じて、寝たふりに撤したい気分。できるなら、いっそ何にも見なかったことにしてしまいたい。



制帽は被っていないけれど、白いシャツに深い灰色のパンツ姿。
明らかに仕事帰りだとわかる。



そんなにタイミング良く?
仕事帰りに鉢合わせるなんて、あり得ると思う?



まさか、茜口駅で私を待ち伏せしてた?
私に仕返しするために?



だとしたら、悪質極まりない。