「いや、営業課のデータは正確だ。しかし今回は数値ではなく、中身に焦点を当てようとしているんだ。お客様の声をすくい上げるのが目的だよ」
阪井室長の言葉に、姫野さんは黙って頷いた。諦めたように。
彼がプロジェクトに加わることは、もう決まったこと。部長会で指示があったのなら仕方ない。
私にも悟ることができたけど、納得できないのは事実。
だって、今朝の出来事が面白すぎて。
そんなドジな人が、同じプロジェクトのメンバーに加わるなんて。
姫野さんに話したら、今よりもっと嫌がるに決まってる。話すつもりはないけど、今この状況で、彼の顔をまともに見ることができないのは辛い。
会議室に入ってからも、ずっと顔を伏せっぱなし。もし顔を上げて彼と目が合ったら、今度こそ我慢できなくて吹き出してしまうだろうから。
吹き出したとして、ここで暴露するようなネタじゃない。お昼休みに、美波に話そうと決めている。お楽しみという訳ではないけど。
「では、彼は企画開発室への異動ということではなく、一時的に協力するものと考えていいんですね?」
やっぱり、姫野さんを納得させるのは至難の技らしい。

