君と夢見るエクスプレス


せっかく美波に連れて行ってもらったケーキ屋さん。ケーキだって美味しいのに、心ここに在らずの私は美波との会話はほとんど耳に入ってこない。



頭の中の半分以上を、橘さんが占めている。



それと、繰り返される後悔。
美波に話してしまった後悔はもちろん、茜口駅に来てしまった後悔。



どうにもならない後悔の隙間を縫って、時折顔を覗かせるのは、一方的に口止めを要求した橘さんへの怒り。



「美味しかったね、また行こうね」



満足そうに笑う美波に、とりあえず相槌を打ちながらも心の中で謝るしかなかった。



帰りに茜口駅の駅員室を見たけれど、彼の姿はない。
今度こそ、どこにも。



「橘さん、もう帰ったみたいだね」



美波が大袈裟に駅員室を覗き込む。
窓口には新人君の姿もなく、他の駅員さんが面倒くさそうに改札口を通るお客さんを見送っている。



駅員室の奥にいた駅長さんと目が合ったから、会釈をして改札口を抜けていく。
改札口を入ったら、少しは気持ちが軽くなる。



だけど未だにきょろきょろする美波が、気になってしまう。