「お客様、何かお探しですか?」
澄んだ声が耳に飛び込んだ。
ぴたりと足を止めた美波につられて、私も立ち止まる。
せっかく軽くなっていた気持ちに、圧し掛かってくるのは嫌な予感。
「あ、橘さん?」
美波の声に振り返ると、橘さんのにこやかな笑顔。制帽を被って、制服の白いシャツの胸元には名札がきらりと光っている。
「こんにちは」
橘さんの声を聴いた途端、美波が吹き出すように笑い出した。隠すように顔を伏せて、掴んでいた私の手から腕が解けて崩れ落ちていく。
「美波? ちょっと……、大丈夫?」
慌てて抑えようとするけど、美波の笑いは収まらない。
きょとんとしたまま首を傾げていた橘さんが、心配そうに美波を覗き込む。
「どうしたの?」
そんなこと、私に聞かれても……
「さあ?」と惚けることしかできない。
まさか、さっき橘さんの失態を話してきたところなんて言えるわけないでしょう?
だけど、このままじゃバレちゃう。

