君と夢見るエクスプレス


「ねえ? 見るだけだよね? 話さないよね?」
「うん、見るだけ。大丈夫、さっき聞いたことは言わないから」



美波は軽い口調で笑って返す。私が声のトーンを落としているのに、そんなのお構いなし。



駅員室を覗きながら、改札口を抜けていく。



窓口にいるのは彼じゃなくて、もっと若い駅員さん。先日姫野さんと来た時にも窓口に居た新入社員だ。



駅員室の奥で話している駅員さんが二人見えるけど、どちらも彼じゃない。くっきりと赤いラインの入った制帽を被っているのは駅長さん、もう一人はぽっこりとお腹が出てるし。



「なんだ、いないのかなあ?」



改札口を抜けた後も、美波は名残惜しそうに駅員室を振り向いてる。



落胆する美波に反して、私の気持ちはするすると軽くなっていく。足取りまで軽く。



「今日は休みなんじゃない?」
「休みかあ……、せっかく来たのに」
「ほら、早くケーキ屋さん行こうよ」
「ランチ食べたばかりだよ」
「少しぷらっとしたらいいでしょ」



重い足取りの美波の手を引いて、北側の出口を目指す。まだ納得できないらしく、美波は駅員室を振り向いたりコンコースを見渡したり。