君と夢見るエクスプレス


「うん、橘君には事前に説明してあるが、今回の茜口駅前の再開発にあたり、営業サイドの視点から意見を求めてはどうかと部長会で話があったんだ」

「茜口の利用者、乗降客の動向を把握できるのは、やはり実際に駅でお客様と接している駅員だと。私たちはあくまでデータ上で分析するしかないから……ということでしたよね」



阪井室長の言葉に、笠子主任が柔らかな口調で付け加える。たぶん私よりも姫野さんを納得させるために、敢えて穏やかに補足したんだろう。



「それでは、営業課からのデータは信用できないということですか? すべて数値として出てきているんですよ?」



姫野さんは、強い口調で言い返す。
きっと駅員という畑違いの彼が、これまで支えてきたプロジェクトに加わることに抵抗があるんだ。



姫野さんは、どちらかというと好き嫌いが激しい人。自分の仕事はできる限り、自分ひとりの力でやり遂げる。自分の領域に、他部署の人が入ってくるのを嫌う人だから。



それに姫野さんには、この茜口駅前再開発プロジェクトの始動時から携わってきたという何かしらのプライドがあるのだろう。