やれやれ、また説明しなきゃ。



「何にもないってば……、笠子主任と姫野さんと三人で、近くの居酒屋で食べて、お疲れ様だもん」
「家まで送ってもらったり……、っていうことはなかったの?」
「ないないない、三人とも同じ電車でしょ? 一番に私が降りるから」
「まあ、それは仕方ないのかな……」



不満そうに口を尖らせて、美波はグラスを口へと運ぶ。



昨日は、本当に何にもなかった。
居酒屋さんで一杯ずつ生中を飲んで適当に食べて、最後にはお茶漬けで終了。



誰も酔い潰れたりすることもなく、誰かの愚痴を言い合うこともなく、極めて穏やかで紳士的な食事会。
そのまま真っ直ぐ帰宅したから、何にもあるはずがない。



「そんなことよりも、美波はどうなの?」
「は? 私は……ねえ、どうしようっかなあ……と悩み中」



美波の反応が、昨日とは違う。



どうしよう、とは?



いよいよ阿藤さんに、自分からアプローチしてみる気になったのかもしれない。



だとしたら、すごい進歩だ。
今まで美波には、自分から行動するという考え方はなかったから。



何が、美波を変えたのだろう。