「姫野君? もう終わったのか?」



目を見開いた笠子主任の視線は、私を飛び越えた向こう側へ。視線を追って振り向いた先には、姫野さんが書類を抱えて息を切らせている。



「はい、意外と物分かりのいい人で助かりました。お待たせしてすみません」



姫野さんは清々しい笑顔。
きっと長引く覚悟で向かったのだろうけど、すぐに相手が理解してくれたから嬉しくて堪らないのだろう。



「そうか、よかった。今ちょうど松浦さんと話していたんだけど、これから皆で食事にでもどうだろう?」



え?
聞き返してしまいそうになって、慌てて口を噤んだ。



笠子主任を振り向いたら、目を細めて首を傾げる。



「本当は先に帰ってもらおうと思ったけど、ここ最近頑張ってくれてるから、先約がなければ食事でも……と思って」
「すみません、僕も松浦さんに尋ねたのですが、急に財務課が電話なんかしてくるから」
「うん、電話があった時はドキッとしたけど、なんとなく早く終わりそうな気がしていたんだ」
「そうですか、やはり直接話した方が話が早いですね」



姫野さんは至って満足げな笑顔。
私を置き去りに、笠子主任と姫野さんの会話は続く。