嫌な予感いっぱいで振り返ると、笠子主任が驚いた顔をした。
「ごめん、驚かせた?」
「いいえ、すみません……」
てっきり、姫野さんだと思ってたから。安堵感と恥ずかしい気持ちかこみ上げてきて、顔を伏せずにはいられない。
「そうだ、さっき電話があって、姫野君が財務課へ行ってるんだ」
「え? また打合せですか?」
「いや、さっきの会議のことで教えてほしいと言われたそうだ。電話では説明しづらいからと姫野君が出向いている」
「そうですか……、わかりました」
少しがっかりしたのは、早く終わったと思っていたのに終われなくなったから。姫野さんが居ないのに、私が先に帰るわけにもいくまい。
「松浦さんは、今のうちに帰ったら?」
「え、そんな……本当に? いいんですか?」
「姫野君には、僕から言っておくよ」
笠子主任は、にこりと労いの笑顔を見せてくれる。
本当に帰ってもいいのかな?
そんなことして、姫野さんに怒られたりしないかな?
さっきの返事だって、まだ答えていない。あやふやなまま逃げてきただけなのに。

