君と夢見るエクスプレス


「皆さん、ちょっと集まってください」



阪井室長の呼び掛けに皆が立ち上がる。私は皆の一番後ろに隠れて、じっと息を潜めた。ここなら彼から見えるはずあるまい。



「運輸営業部の橘(たちばな)君です。今日から彼に企画開発室の仕事を手伝ってもらうことになりました。さあ、一言挨拶を」
「運輸営業部の橘航(たちばなわたる)です。茜口(あかねぐち)駅の駅員をしています。よろしくお願いします」



阪井室長に促されて挨拶した彼に、皆が笑顔で拍手を送る。訳が分からずに混乱する私だけ置いてけぼり。



まさか、彼が同じ社内の人だったなんて信じられない。
しかも、選りによって、どうして企画開発室に?
他にも部署はいくらでもあるのに……



「皆さん、業務に戻ってください。姫野(ひめの)君と松浦さん、ちょっと来て」



上手に皆に紛れて、席に着こうとする私を呼び止めたのは阪井室長。笑顔で手招きをする室長の隣りには彼がいて、またもや目が合ってしまった。



先に目を逸らしたのは私。
べつに勝敗を競ってるわけじゃない。
もう、サイアクだ……としか言いようがない状況からの現実逃避。



一瞬だったけど、彼の目は僅かにうろたえていたように見えた。