だけど、気持ちを落ち着けて。
できるだけ平静を装って。



「何にもない、でもさ……、毎日はキツいけど、たまの息抜きに外出するのもいいよね」



適当に誤魔化しながら、脳裏に浮かんだ橘さんの姿をこっそりとかき消した。美波に悟られぬように。



それなのに、美波は口を尖らせる。



「うん、外はいいけどね、まどろっこしくなるのよ」
「え? 何が?」



美波が言い終えるのを待たずに、語尾が重なるのも気にしないで聞き返してしまった。



だって、外出の良い所ばかり話してくれてた美波が、不満いっぱいの表情に変わってる。



『まどろっこしい』って、何が?
形勢逆転、今度は私が食いつく番かも。



美波は唇を噛みながら、もぞもぞしながら、いかにも言いにくそうな態度。じっと顔を覗き込むと、観念したように口を開いた。



「そりゃあ……、ねえ? 二人きりなのに何にもないって、どうなの?」



顔を赤く染めて恥じらう仕草は、正に恋する乙女。
美波ったら、可愛いかも。