出来が悪いキノコ【短】



 きっと数十秒しか経っていないのだろうが、私にとっては、何時間の長さにも感じられた。やっと軸だけが切り終わった。


 相変わらず夫の鼻歌とせかしがやむことは無く、私はせかされるたびにいちいち返事をする。暇なあなたとは違って忙しいのだと内心イライラしながら。


 深呼吸をして、キノコのカサに包丁を入れる。


「おい、まだできんのか」


「まだだと言っているでしょう……」


「なるべく早くしろ」


 偉そうに。心の中で舌打ちをして包丁を握り締める。


 包丁の先がカサに入る。


 その瞬間、我慢していた涙があふれ出た。


 ダメだ。このキノコを、私は切ることが出来ない。


 夫の幾度と無く繰り返される催促の声なんて、耳に入らない。もうそんなことはどうだっていい。私には無理だ。


 滲む視界と夫の声に押しつぶされそうになった。