その時。
なぜだろうか。母の顔が頭に浮かんだ。浮かんでは消え、浮かんでは消える。自然と包丁を持つ手が震えだす。
キノコの細い軸を切らないうちに私の手が止まってしまった。手を動かす気にならないのだ。
「おい、まだか」
「まだですって」
「いつもより遅くないか」
「気のせいですよ」
夫のせかす声。作らなければいけない。キノコ料理を。
よし、と気合を入れなおして包丁の柄の部分をぐっと握る。今度は自然に切ることができた。
しかし軸を一つ切ったからといってキノコの下準備が出来るわけではない。あと数本、軸を切らなければいけないし、カサだって残っている。
どうしてキノコ相手にここまで疲れなくてはいけないんだと思いながらも、たれてくる汗を腕で拭いて次の軸へと包丁を入れた。



