イヤミ男の反撃がない理由は、朝礼が始まってすぐに判明した。

「えー・・・と、急ではあるが、金崎が今月で退職することになった」
支店長の発表とともに、支店内にざわめきが伝播していく。金崎派のメンバーの中には、すでに涙ぐんでいる人もいる。

「いや、まあ、急というか、以前から打診はされたいたのだが、支店のことを考えてずっと先延ばしにしてもらっていたんだ。だが、金崎の実家が上場することもあり、この機会に社長に就任することが正式に決まったから、まあ、仕方なく退職願いを受理したわけだ。なあ、金崎・・・」

すすり泣く声が聞こえる。
アイドルの最終公演でもあるまいし・・・

「この度、株式会社金崎商会が上場することになり、その代表取締役に就任することになりました。短い間でしたが銀行で多くのことを学び、成長できたと思います。本当にありがとうございました。まだ月末までには時間がありますので、それまでは一生懸命頑張ります」

拍手喝采。
目を真っ赤にした女子行員たちが、両手を打ち鳴らす。

茶番だ──

握り締める手の色が真っ白に変わる。

・・・悔しい。
悔しい。
悔しい──悔しいよ!!
自分のために情報を漏えいし、街そのものとも言える寺前酒販を落とし込み、汚れたお金でブルジョアを気取る。

もう私のことなんて眼中にはないだろう。