スマートフォンを取り出し、アルバムの中を確認する。
「バッチリ」
金崎さんの通信履歴とメールの送信先が、クッキリ・ハッキリと写っている。

スマートフォンはもはや、007のスパイグッズに匹敵する性能だ!!とか、感心している場合ではない。

スマートフォンを制服のポケットに入れ、呼吸を整えて階段を下りる。1階と2階の真ん中にある狭い踊り場で、上がってきた金崎さんと無言ですれ違う。


アブナイ、アブナイ──


早打ちする心臓とは裏腹に、何事もなかったかの様に金庫経由で席に着いた。

「水野さ~ん」
着席と同時に前原課長に呼ばれ、思わずビクリと身体が反応する。こういう仕事には関係ないことに、前原課長は異常に敏感だ。もしかしたら、スペアキーを持ち出したことがバレたのかも知れない。

「これ」
差し出されたのは顧客データ変更の依頼書。
起票者は当然の様に金崎さん。
「すぐに入力して、私に返してちょうだい。
前みたいに捨てちゃだめよ~」

し・つ・こ・い!!

「はい」


もい、ため息しか出ない。
ツマラナイ男と、ソレに利用されるバカな女。