営業室では、今日も金崎さんが歩き回っている。あの姿を、昨日まではカッコイイと思って眺めていた。でも今は、弱った獲物を探すハイエナにしか見えない。

本来、熱しやすく冷めやすい質ではあるけど、ここまでの落差は初めてだ。

冷静に観察するとよく分かる。
確かに、入出金の伝票をチェックしている。
あ、手が止まった。
何か書き写している。
目が合った。
笑顔でコチラに歩いて来る。
「これ、変更しておいてくれるかな」
金崎さんの地区コード61・・・
ガッカリだ。
本当に残念で仕方がない。

「はい」と返事をして受け取る。
そして、金崎さんが営業室を出て行った後、私は顧客データ入力票をゴミ箱に捨てた。


「はあ・・・」
昼休み、食堂で私は大きく溜め息を吐いた。
ああ、夢と希望があふれる銀行員生活だったのに、すべて台無しだ。

「そんなに大きなため息吐いてると、幸せが逃げていくわよ」
背後から、不意に声を掛けられた。驚いて振り返ると、珍しく早番の見山さんだった。
「お疲れ様です」
見山さんは私の対面に座り、弁当を広げ始める。私は再度驚き、見山さんを見た。この食堂で他の人と同じテーブルに着いたところを、今まで一度も見た事がなかったからだ。

「何?」
「い、いえ」
「変なの」
い、いや・・・ツッコミたいのは、私の方なんですけど!!
残念っ!!切腹!!
て、昔そんな芸人がいた気がする。