スマートフォンをベッドの上に投げ、窓の外を眺める。すっかり暗くなった街に、ポツリポツリとささやかにネオンが輝く。
まるでホタルの様だ。

中途半端に発展した街。オシャレなバーやブティックもなく、何だかすべてが薄暗いイメージ。

人口30万人の地方都市。ここ寺前市は街の中央にある寺前酒造を中心とした、首都ならぬ酒都だ。ダジャレを口にするだけでも、悲しくて泣けてくる。


就職は地元ですることを条件に、大学の4年間だけ東京で暮らした。

「ふう・・・」と、無意識にため息が出る。
約束だからUターン就職したけど、したけど・・・泣きたい。

就職先は、地元の地方銀行である「きぼう銀行」。第一志望の帝王証券には地方採用が無く、問答無用で落とされた。

夢も希望もないのに、きぼう銀行に就職なんて笑えない。あ、楓は大笑いしていたっけ。


大学時代に仲が良かった2人。
菅原 穂浪(すがわら ほなみ)は、私が落ちた帝王証券に入社。かなり優秀だし、間違いなく活躍するだろう。

今村 楓(いまむら かえで)は、東京に本社がある大手メーカーに就職。愛に生きる奔放な生活は、今後も変わらないと思う。