【ちかこver.】


 付き合っていた人とこの間、お別れをした。

入試でお互いばたばたして、それですれ違ってしまったからだ。


大学も同じところではないし、
今別れておくのが正解なんだと、私はこの数か月の間言い聞かせてきた。

でもやっぱり、あきらめることができない気持ちが、どこかに潜んでる。
様子をうかがうように。
私の中で。

「ちかこ、ほら、写真撮るよ!
 卒業の記念なんだから!」

 みさはよく笑うようになった。

最初別れたばかりの時は、どうなることかと思ったけど、本当によかった。
私は、微笑んで彼女のもとへと歩いた。

「ちかこ、ごめん!
 体育館にカメラ忘れてきたみたいだ!
 ちょっととってくる!」
 鞄をあさりにあさった後、体育館へと駆けて行った。
 
「おー大丈夫なん?
 一緒に行こうか?」

 彼女の背にそう言葉をかけたけれど、

「大丈夫!
 ごめん、ちょっと待ってて!」
 みさはそう残して、一人で行ってしまった。

私は一人風に揺られながら、その場に立ちすくむ。

「ちかこ。
 卒業おめでと。」

 振り返らずとも分かった。

「……智也。
 ありがと。」

 彼がいた。
そう彼がいたのだ。

「あの、さ。
 俺、大阪の大学、受かったんだ。」

「……うん。」

「それで、ちかこは地元だろう?
 それで、えっと。
 なんていうか、すげー俺の勝手なんだけど、なんつーか。」

 私は一度目をつむった。

そして、


「私、4月から、大阪にある大学に通うんだ。
 奇遇だね。」

「え?」

「ほら、あたしにまた勉強教えてくれるんでしょ?」

「っ…。」
 彼は私めがけて、飛びついてきた。
彼の背をさすりながら、


 男の人の涙は、
どんなものにも負けないと、このとき思った。