*
「居ませんねぇ〜」
いくつも並ぶ丸い窓を、一つずつ確認していく。何処にも"獏"の気配はなかった。
しかし、ここに"居た"という痕跡だけは確かに残されていた。
開かれた丸い窓。その向こうに広がるはずの世界……それが消え、白い空間が果てしなく続いている。
そう、この無限に続く白い空間こそ、"獏"が夢を食い荒らした跡なのだ。
やはり、"獏"はどこかに必ず居る……。そう確信した時、白い通路の奥から重い、地響きのような音が聞こえた。
―ズン……ズン……ズン
「おい、カレン。……何か聞こえないか? 」
窓を覗き込んでいるカレンに声をかける。
「……確かに聞こえます……。ちょっと待ってくださいね~」
カレンはそう言い、真剣な表情に変わる。耳元を押さえるような動作をした後、左目側にレーダー盤のようなものが浮き出した。
鈍い機械音が鳴り、淡く光り出す。
レーダー盤は、ピッピッピッと一定の音を保ちながら探知を開始した。
―ズン……ズン……ズン
地響きは段々と大きくなり、近付いてくる。
一定のリズムを保っていたレーダー盤は、「ピーーーッ! 」と大きな音を立て反応を示した。
カレンはハッとし、大きく口を開けて叫んだ。
「っ!! 来ます!! 」
カレンは隣に立つ直樹を抱きかかえ、俊敏な動きで地面を蹴った。
飛び上がった直後、ものすごいスピードで黒い物体がすぐ目の前を掠めた。激しい衝突音が辺りに響きわたる。
カレンは地面に着地し、直樹を抱きかかえていた腕を離した。途端、身体を激しく打ち付け地面に落下した。
「痛っ! 突然腕離すなよ……」
ぶつぶつ文句を言いながら立ち上がる。
隣に立つカレンを見ると、彼女は前を見据え、真剣な表情を浮かべていた。
カレンの見つめる先、さっきまで二人が立っていた場所には黒く、体長2mはあるであろう生物が、四つん這いになり地面にうずくまっていた。
黒く大きな生物……それは、二年前に倒したと思っていた"獏"以外の何者でもなかった―――。
「……やっぱりまだ隠れていやがったか……」
目を閉じ、歯を食いしばる。また脳裏に、二年前の悲劇がよぎった。
ゆっくりと息を吐き、目を開く。今までとは比べ物にならないくらいの鋭い目つきだった。
毛のない真っ黒な体皮、象のような長い鼻。長い牙が覗く口元からは、息とともに黒い煙が漏れている。息を荒げながら四つん這いになっていた"獏"は、ゆらゆらと立ち上がった。
ゆっくりとこちらに顔を向ける。
不気味に赤く光る目が、警戒する二人をしっかりと捉えた。
「……戦闘モード開始します」
カレンの言葉で首元を覆い隠す鋼鉄製のガードが現れ、右腕が機関銃型のレーザーガンに変形した。
鋭い目つきで"獏"を見据えている。
「……来るぞ!! 」
「グギャアァァオォォ!!! 」
恐ろしく大きな口を開け、奇声を発しながら突進してきた。
直樹達を切り裂こうと、長く大きな腕を振り上げる。
二人は攻撃される寸前、それぞれ左右に回避しダメージを逃れた。
空中に飛び上がり、回避したカレンが先手を打つ。
「こっちですよー」
そう言い、"獏"に狙いを定めレーザーを撃ち込む。
この個体は大した力は持っていないようだ。反応が鈍く、カレンの撃ち込んだレーザーはいとも簡単に足に命中した。
「グォォオ!! 」
足にダメージを負ったことにより、致命傷にはならないが"獏"の姿勢が崩れた。
直樹はその一瞬の隙を逃さなかった。
姿勢を崩した"獏"の前方に素早く回り込み、右足のホルスターに手を伸ばす。しっかりとレーザーガンを握り、照準を合わせ引き金を引く。
二年間ずっと触れていなかったというのに、腕は少しも落ちてはいなかった。
的を外れることも無く、直樹の撃ったレーザーは"獏"の赤い右目を射抜いた。
素早くもう一発、左目にも撃ち込む。
「グギャアァァァァ!!! 」
両目を失い、半狂乱になる"獏"。足を引きずりながら、腕を使い狂ったようにのたうち回る。
「マスター! 離れてください! ……後は私がやります」
目の前に着地し片腕を広げ、止めを刺そうと近づこうとする直樹を抑制するカレン。
「……頼む」
直樹は頷くと、彼女の言う通りその場を離れた。
カレンは目を閉じ、深く息を吐く。 カッと目を開き、空高く飛び上がった。
縦横無尽に暴れ回る"獏"の腕に狙いを定める。
動き回っているにも関わらず、カレンのレーザーは一弾も外さず標的に被弾した。
腕にレーザーを受けた"獏"は、完全に地面に倒れ込んだ。
撃たれた足と腕をぴくぴくとさせ、息を荒らげている。
「グォォオ……グルルル! フゥーフゥー……」
起き上がろうとするが力が入らないらしく、起き上がろうとすれば倒れ込み……を何度も繰り返す。
地面に降り立ち、"獏"へとゆっくり近付いていく。
「……もうこれで悪さはできませんよ」
目の前に立ち、"獏"の額に触れる。
"獏"はビクッと反応した。
カレンは弱りきったこの妖獣に、終わりを告げる言葉を唱えた。
「……削除(デリート)」
「居ませんねぇ〜」
いくつも並ぶ丸い窓を、一つずつ確認していく。何処にも"獏"の気配はなかった。
しかし、ここに"居た"という痕跡だけは確かに残されていた。
開かれた丸い窓。その向こうに広がるはずの世界……それが消え、白い空間が果てしなく続いている。
そう、この無限に続く白い空間こそ、"獏"が夢を食い荒らした跡なのだ。
やはり、"獏"はどこかに必ず居る……。そう確信した時、白い通路の奥から重い、地響きのような音が聞こえた。
―ズン……ズン……ズン
「おい、カレン。……何か聞こえないか? 」
窓を覗き込んでいるカレンに声をかける。
「……確かに聞こえます……。ちょっと待ってくださいね~」
カレンはそう言い、真剣な表情に変わる。耳元を押さえるような動作をした後、左目側にレーダー盤のようなものが浮き出した。
鈍い機械音が鳴り、淡く光り出す。
レーダー盤は、ピッピッピッと一定の音を保ちながら探知を開始した。
―ズン……ズン……ズン
地響きは段々と大きくなり、近付いてくる。
一定のリズムを保っていたレーダー盤は、「ピーーーッ! 」と大きな音を立て反応を示した。
カレンはハッとし、大きく口を開けて叫んだ。
「っ!! 来ます!! 」
カレンは隣に立つ直樹を抱きかかえ、俊敏な動きで地面を蹴った。
飛び上がった直後、ものすごいスピードで黒い物体がすぐ目の前を掠めた。激しい衝突音が辺りに響きわたる。
カレンは地面に着地し、直樹を抱きかかえていた腕を離した。途端、身体を激しく打ち付け地面に落下した。
「痛っ! 突然腕離すなよ……」
ぶつぶつ文句を言いながら立ち上がる。
隣に立つカレンを見ると、彼女は前を見据え、真剣な表情を浮かべていた。
カレンの見つめる先、さっきまで二人が立っていた場所には黒く、体長2mはあるであろう生物が、四つん這いになり地面にうずくまっていた。
黒く大きな生物……それは、二年前に倒したと思っていた"獏"以外の何者でもなかった―――。
「……やっぱりまだ隠れていやがったか……」
目を閉じ、歯を食いしばる。また脳裏に、二年前の悲劇がよぎった。
ゆっくりと息を吐き、目を開く。今までとは比べ物にならないくらいの鋭い目つきだった。
毛のない真っ黒な体皮、象のような長い鼻。長い牙が覗く口元からは、息とともに黒い煙が漏れている。息を荒げながら四つん這いになっていた"獏"は、ゆらゆらと立ち上がった。
ゆっくりとこちらに顔を向ける。
不気味に赤く光る目が、警戒する二人をしっかりと捉えた。
「……戦闘モード開始します」
カレンの言葉で首元を覆い隠す鋼鉄製のガードが現れ、右腕が機関銃型のレーザーガンに変形した。
鋭い目つきで"獏"を見据えている。
「……来るぞ!! 」
「グギャアァァオォォ!!! 」
恐ろしく大きな口を開け、奇声を発しながら突進してきた。
直樹達を切り裂こうと、長く大きな腕を振り上げる。
二人は攻撃される寸前、それぞれ左右に回避しダメージを逃れた。
空中に飛び上がり、回避したカレンが先手を打つ。
「こっちですよー」
そう言い、"獏"に狙いを定めレーザーを撃ち込む。
この個体は大した力は持っていないようだ。反応が鈍く、カレンの撃ち込んだレーザーはいとも簡単に足に命中した。
「グォォオ!! 」
足にダメージを負ったことにより、致命傷にはならないが"獏"の姿勢が崩れた。
直樹はその一瞬の隙を逃さなかった。
姿勢を崩した"獏"の前方に素早く回り込み、右足のホルスターに手を伸ばす。しっかりとレーザーガンを握り、照準を合わせ引き金を引く。
二年間ずっと触れていなかったというのに、腕は少しも落ちてはいなかった。
的を外れることも無く、直樹の撃ったレーザーは"獏"の赤い右目を射抜いた。
素早くもう一発、左目にも撃ち込む。
「グギャアァァァァ!!! 」
両目を失い、半狂乱になる"獏"。足を引きずりながら、腕を使い狂ったようにのたうち回る。
「マスター! 離れてください! ……後は私がやります」
目の前に着地し片腕を広げ、止めを刺そうと近づこうとする直樹を抑制するカレン。
「……頼む」
直樹は頷くと、彼女の言う通りその場を離れた。
カレンは目を閉じ、深く息を吐く。 カッと目を開き、空高く飛び上がった。
縦横無尽に暴れ回る"獏"の腕に狙いを定める。
動き回っているにも関わらず、カレンのレーザーは一弾も外さず標的に被弾した。
腕にレーザーを受けた"獏"は、完全に地面に倒れ込んだ。
撃たれた足と腕をぴくぴくとさせ、息を荒らげている。
「グォォオ……グルルル! フゥーフゥー……」
起き上がろうとするが力が入らないらしく、起き上がろうとすれば倒れ込み……を何度も繰り返す。
地面に降り立ち、"獏"へとゆっくり近付いていく。
「……もうこれで悪さはできませんよ」
目の前に立ち、"獏"の額に触れる。
"獏"はビクッと反応した。
カレンは弱りきったこの妖獣に、終わりを告げる言葉を唱えた。
「……削除(デリート)」
