次の日は、昨日の雪が嘘のようにカラリと晴れていた。
 光一はなるたけ母親が怒らないように急いで朝食を食べ、防寒具を着て外に飛び出す。まだ6歳だが、自分がいることで母親が怒ることは目に見えて分かっていた。

「っはぁっ、ふ、っく、ふえぇぇ…」

 光一の目からはなみだが溢れ出し、その場にしゃがみこんだ。
 こんな所でないていたら、またお母さんに怒られる。分かっているのに涙は止まらず、光一は泣きながら近くの公園へと向かった。

 雪をゆっくりと踏みしめてなきながら、光一はベンチによじ登った。どうして母親があんなに起こるのかわからない。怖い。色んな感情があふれ出して、なみだが余計にあふれ出る。しかし、そんな感情の一番奥にある感情には、光一自身、気づいていなかった。

 ――――どのくらい経っただろう。少なくとも、声がかれてのどがひりひりしてくるほどには、なき続けていた。帰ろうか、と思ったが、また起こられるのはいやだ、と感じ、動かない。
 そんな時だった、上から声が降ってきたのは。

「どうしたの?ないてるの?」

 透き通るような声だった。いや、実際透き通っていたかもしれない。真っ白な雪に吸い込まれそうなくらい、きれいな声だった。
 顔を上げると、声の持ち主は声に負けず劣らずの容姿をしていた。
 銀色の髪には水色のメッシュが一筋入っており、真っ白な雪のような肌。真っ赤な唇は薄く、何をも見透かすようなアクアマリン色の瞳。しかし、なにより驚いたのはそんな少女の服装だろう。
 光一のような防寒は何も施されておらず、夏に着るような水色のワンピース一枚しか着ていない。はだしで雪の上に立っている姿は、正に雪の妖精だろう。

「?」

 何も答えない光一を不思議に思ったのか、少女はコテンと首をかしげた。

「あ…。大丈夫。お姉さん、寒くないの?」

 とりあえず返事し、疑問を投げかけると、少女は、そっか、大丈夫か、と笑った。

「私は大丈夫だよ。寒さには強いほうなの」

 流石に真冬に外をワンピース一枚で出歩く少女はいないだろうが、光一はなんとなく納得してしまった。それほど現実離れした容姿だったのだ。

「僕、光一。お姉さんは、だれ?」
「私はシルク。よろしくね、光一君」

 シルクは花が咲いたように笑い、握手するように手を差し出した。光一も手袋を取り、シルクの手に自分の手を重ねる。シルクの手は、ワンピース一枚なのにもかかわらず、とても温かかった。